【作品解説】サルバドール・ダリ「大自慰者」

大自慰者 / The Great Masturbator

《記憶の固執》と並ぶダリ初期の代表作


《大自慰者》(1929年)
《大自慰者》(1929年)

概要


作者 サルバドール・ダリ
制作年 1929年
メディウム 油彩、キャンバス
サイズ 110 cm × 150 cm 
コレクション 国立ソフィア王妃芸術センター

《大自慰者》は、1929年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。《記憶の固執》とともにダリの初期の代表作とみなされている。記憶の固執の24 cm × 33 cmに比べるとはるかに巨大な110 cm × 150 cmもある。作品は現在、スペインのマドリードにある国立ソフィア王妃芸術センターに所蔵されている。

岩はダリの自画像


中央に描かれている下を向いて目を閉じた顔はダリの横顔である。この横顔はダリの故郷カタルーニャのポルトリガトの海岸にあるゴツゴツした自然岩である。

 

ダリは自画像と岩を同一視して描いている。ダリはポルトリガト海岸に点在する不思議な岩からインスピレーションを得て、作品を制作していた。

 

この黄色い自画像は2年後の1931年に制作された《記憶の固執》で中央に描かれている白い生物と同じものである。《記憶の固執》のほうの自画像は岩ではなく、白い柔らかい物体になっている。またその後、1954年に制作された《記憶の固執の崩壊》ではゼラチン状になっている。

ガラとの出会いと自慰


この作品が描かれた1929年は、生涯のパートナーとなるガラと出会った年である。岩の頭の後ろ側にある横向きの女性像はガラの顔である。

 

頭にガラがくっついているのは、そのタイトル「大自慰者」が示すとおり、ダリがガラを想って自慰を表現しているといわれている。芸術における自慰表現はクリムトやデュシャンなどさまざまな作品で現れる。

性的恐怖と去勢


ガラの顔の先にあるのがダリの下半身である。これはダリはガラにフェラチオをしてもらっている状態になっている。ダリの太ももが硬直しているのは、ダリにとっては初体験だから緊張しているからだろう。

 

そして、太ももには血が流れている。女性であればまだしも、男性が血を流すのはちょっと分からない。これは去勢恐怖を暗示している。 男性における去勢と恐怖はエディプス・コンプレックスを暗示している。ダリはジグムント・フロイトの影響が大きく、無意識的な去勢不安と性的不安がかなりあり、ダリと父親との葛藤を表現している。

 

性的不安要素はこの画面のいたるところで暗示されている。たとえばダリの顔にはイナゴがとまっている。イナゴ恐怖症だったダリは、非常にパニックになっている状態を表現するときにいつもイナゴを使っている

 

顔にたかるアリもダリの表現としておなじみで、《記憶の固執》や『アンダルシアの犬』まで、ダリの作品内に多く登場するモチーフである。アリはダリにとって「死」や「減退」を象徴するものである。

 

この絵は、ダリのセックスに対する深刻な恐怖心と欲望との葛藤を表現している。なぜならダリは子どものとき、父親から性教育としてたくさんの梅毒患者の写真を見せられたため、性に対する恐怖心が刷り込まれているからである。性病にかかってグロテスクに損傷した性器の写真はダリのトラウマとなった。

ガラによって性的不安は解消された


しかしこの絵画は「死」だけを表現しているわけではなく、「生」も表現されている。

 

背景には二人の人物と一人の人物が描かれ、卵が配置されている。卵もダリのトレードマーク。ダリ美術館の屋根にもたくさん設置されている。ダリにとって卵は率直に「生」を象徴するものである。

ボッシュの「悦楽の園」が元ネタ


 《記憶の固執》などたびたびダリ自身が登場する大自慰者だが、よく比較されるのがヒロニエム・ボスの《悦楽の園》である。この作品の左側の岩の絵が大自慰者によく似ている。

ヒロニエム・ボッシュ《悦楽の園》
ヒロニエム・ボッシュ《悦楽の園》

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