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【作品解説】アルベルト・ジャコメッティ「指差す男」

指差す男 / Pointing Man

周囲の恐ろしい空間に抵抗し身振りする男


アルベルト・ジャコメッティ「指差す男」(1947年)
アルベルト・ジャコメッティ「指差す男」(1947年)

概要


作者 アルベルト・ジャコメッティ
制作年 1947年
メディウム ブロンズ
サイズ 179 x 103.4 x 41.5 cm
コレクション ニューヨーク近代美術館、テート・モダン他

「指差す男」は、1947年にアルベルト・ジャコメッティによって制作された青銅彫刻作品。近代彫刻において最も重要な作品の1つと見なされている。

 

「指差す男」は6体鋳造されており、4体はニューヨーク近代美術、テート・モダン、デモイン・アートセンターといった美術館が所蔵している。ほかの2体は、財団、個人がそれぞれ所蔵している。

 

2015年5月11日ニューヨーク・クリスティーズのオークションで1億4100万ドルの値を付け、市場に流通する彫刻で最も高額な作品の1つと見なされている。クリスティーズは本作を「ジャコメッティの最もイコン的であり喚情的な作品」「希少なマスターピース」と説明した。

サルトル哲学に満ちた彫刻


あまりに虚弱的であり、匿名的であり、また孤独な雰囲気の漂う人型銅像が、左腕を上げ右手の人差し指を突き出して何かジェスチャーをしている。彼が何のジェスチャーをしているのか、何を伝えたいのかは分からない。痩せ過ぎていて、ほとんど骸骨や黒焦げ遺体や腐食した遺体のようにも見える。

 

実存主義哲学者ジャン=ポール・サルトルは、ジャコメッティの作品について「無と存在の中間」と話しているように、本作品はサルトルの実存主義的な哲学に満ちている。

 

また、サルトルは「一見するとこの彫刻は、ナチスの強制収容所でやせ衰えた殉教者たちのように見える。しかし、すぐあとに私たちはかなり異なる考えを持つようになるだろう。これらの立派なスレンダーな造形は天国へ連結する表現である。私たちは宗教的なものに遭遇したように思えるのだ。」と批評している。

人間造形に焦点を置いたビジョンを制作


第二次世界大戦にいたるまでの間に、ジャコメッティはそれまでの初期の芸術スタイルだったシュルレアリスム放棄した。ジャコメッティは自身のシュルレアリスム的な想像能力に不満があったので、生き生きして活動している人間の造形に焦点をおいたビジョンの制作へ切り替えることにした。

 

しかしながら、制作をすすめていくうちに、当初の思惑とは正反対の方向に向かっていった。粘土作業をしているとき、ジャコメッティは身体造形において、周囲の空間の敵対的なプレッシャーに抵抗するため、または恐ろしい周囲の空間から自身の肉体を腐食させられていることを表現するため、筋肉部分を取り除くことにした。

 

すると、ジャコメッティの指のあとだけがラフ残り、「指差す男」の表面は、まるで黒焦げになって腐食したような人体のような、粗雑なものとなったという。

 

しかし、この革新的な人物造形は、遠く離れた場所から見ても展示室内で強烈なインパクトを与えることになった。

公開直後にNYでセンセーショナル


「指差す男」は、1948年1月にピエール・マティス・ギャラリーで開催したジャコメッティの個展の目玉だった。なお1935年から1947年の間、ジャコメッティは一度も個展をしていなかった。

 

この個展はすぐにセンセーショナルを巻き起こし、ジャッコメティの革新的な彫刻造形や戦後ニューヨーク・アートシーンに歓迎されることになった。